作家インタビュー

第01回 大野雄二先生

ジャズピアニストから、CM音楽、テレビの世界へ

元々モダンジャズピアニストとして、数多くのステージで活躍されていた大野先生ですが、どのようなきっかけでCMやテレビなどの音楽を手掛けることになられたのでしょうか。

「最初は、作曲家になんてなるつもりはなかったんだよね(笑)。でも、ひょんなことからCMの音楽をやってみないか、と言うことになって、それまでとは全く違う種類の音楽にとても興味を持ったんだよ。ピアノを弾くというのは、自分の思うように自由に演奏することができるけれど、コマーシャルの場合は、まず、商品があって、そのイメージを何秒という短いフレーズの中で、いかに巧く表現をするのかということが要求される。それに応えていくには、自分の中にも色々とアイディアを持っていなくてはならないし難しいけど、でもそれを解決していくのが、逆にすごく面白かった。番組のテーマもキャッチーな感じが求められるという点では、すごく似てるんだよね。どちらもとてもいい経験をさせてもらったと思うよ。」

こうして、年に何百本にも及ぶCM、民放やNHKなど数多くの番組テーマ曲、さらには、映画音楽など、幅広いジャンルにおける、作家としての活動を開始されることとなりました。

「ルパン三世のテーマ」を書くきっかけは・・・

大野先生と日本テレビとの関わりは非常に深く、1969年より放映された、サスペンスドラマ「火曜日の女」シリーズや、1971年からの「おひかえあそばせ」「気になる嫁さん」などの 石立鉄男主演の人気コメディドラマシリーズ、いわゆる“石立ドラマ”のテーマ曲や劇中音楽を沢山手掛けられ、そうした数々の番組での緊密な繋がりが、1977年からの「ルパン三世のテーマ」を始めとする多くの曲を作っていただくきっかけとなったと聞いていますが・・・。

「結果として、そうだったんだろうと思うね。また、その一連の“石立ドラマ”では、ルパンのコミカルな感じや人情的な部分、『火曜日の女』シリーズでは、サスペンス的な表現など、 本当に良い勉強をさせてもらったと思ってるよ。アクション的な音楽は、最初からジャズが好きだったから比較的自分でも書きやすかったけど、そこに、ドラマで学んだ心理的な面を表現する音楽が加わって、自分の中でのバランスがよくなったよね。」

「ルパン三世のテーマ」について

初めて「ルパン三世のテーマ」が私達の耳に届いて、もうすでに20年以上も経っています。今聞いても新しさを感じ、最近では、CMやゲーム、等様々なジャンルで新たな可能性を発揮していますが、先生は最初にどのような曲をイメージして作られたのでしょうか。

「ルパンっていうのは、こんなことありえない、みたいなことをしてるわけじゃない? なんでもOKというか。で、こっちもなんでもOKみたいな(笑)。それはさておき、テーマだけは、どんな時代、どんな風になっても対応できるような曲にしようと思っていたんだよ。 例えると、それ自体がどんな料理にでもあう素材。すごく美味しいんだけど、この料理にしか合わないというのではなく、それ自体はどんな味にもあうようなもの。そうすればどんな感じにも変化することができるからね。つまり、すごくシンプルに、曲そのものが力を持っている 感じだね。」

また、その後の「ルパン三世」シリーズの楽曲を作曲されるにあたっては、
「自分が変われば、音楽も変わってくると思うんだ。で、その時自分の考えてることとか、興味を持っていることをそのまま出し続けていたんだよね。」

そうした、先生の曲への思いが、それを聴くそれぞれのリスナーの心にも通じ、時代時代にマッチして共感を得ているからこそ、さらなるファンを引き付けてやまないのでしょう。

山田康雄氏と大野先生

アニメーション「ルパン三世」では、出演者の方々との交流も盛んで、特に主役ルパン三世を演じられていた山田康雄氏とは、プライベイトでも大変親しくされていらっしゃった ということですが・・・。

「最初に会ったときから、価値観とか、センスとか、そういうものがすごく近かったんだよ。何も言わなくても、好きな感じとかがすぐにパッと通じたりね。やっぱりそういうことがあると、曲を作ったり、何かをやっていく上でも、愛着が湧くというか、思いが深くなるというのは あるよね。」

そうした、音楽だけではない、大野先生と「ルパン三世」との繋がりが、エッセンスとして「ルパン三世」の裏に秘められていたのでした。

最近のジャズライブ活動について

近年、本格的にジャズライブ活動を再開されましたが、どのような理由からなのでしょうか。

「一言でいうと、作家でもあるけど、元々はジャズピアニストを出発点でやって来てるから、ある時期また、ジャズピアニストに戻りたくなったんだよ。要するに、作家を辞めたくなちゃったわけ(笑)。ライブの面白さっていうのは、ある程度の制約はあるとしても、作曲とは正反対の解き放たれた自由さみたいなものがあって、今はすごくその魅力にとりつかれてしまってるんだよ。それに、やっぱり一流ミュージシャンと一緒に演奏するのは、本当に楽しいからね。」

この取材当日も、ご自宅のスタジオではレコーディング作業の真最中と、多忙な日々を送られる大野先生ですが、
「どんなに忙しくても練習は欠かさない。」
というお言葉からも、両方に対して真摯に取り組まれるプロとしての姿勢を伺わせていただきました。(なお、ライブのスケジュール等の最新情報は、こちらの(株)バップのページで詳しく紹介されていますのでご覧ください。http://www.vap.co.jp/lupin/yuji_ohno.html)

ジャズアルバムについて

昨年から今年にかけて、「ルパン三世」に関するアルバムが数多く発売されましたが、 その中でも特徴的なのは、新曲を含めた「LUPIN THE THIRD JAZZ」Part1とPart2です。それまでの先生の音楽のファンだけに留まらず、新たな層にその人気が広がり、ジャズを通じた交流がネット上などでも多く見られるようになりました。

「今は“ルパン音楽おたく”みたいな人も増えてるんだよね(笑)。つまり、“ルパンの音楽”という一つのイメージが皆の中に出来上がったんだと思うよ。さらに、ルパンのジャズを聞いて、ジャズそのものを好きになって行く人が増えているらしいんだ。『LUPIN THE THIRD JAZZ』がそういう役割を果たしているとしたら、うれしいことだよね。」

趣味は―音楽とMy CD作り

作家として、ミュージシャンとして、大変お忙しい日々を送られている大野先生ですが、お暇な時には、どのようにして過ごされているのでしょうか。

「仕事も音楽だけど、趣味も音楽なんだよ。仕事でもプライベイトでも、楽しんで音楽を聴くことができるんだよね。普通は都会にいると、暇があったら田舎に行きたいとか思うでしょう?僕の場合は、ずっと都会にいたいと思うんだよ。でも、決して自然が嫌いというわけではなくて、ビルの谷間のようなところでも自然になれるというか、音楽を聴いている方が、 自分が自然な気持になれるという感じ。それに家に居れば、いつでも好きなものを聴くことが できるからね。」

さらに、最近の新たな趣味として、“My CD”の制作をなさっているということで、 早速、そのCDを拝見させていただきました。すると、驚くことに、ジャケットから、CD盤自体へのタイトル印字まで、レコード店で市販されているものと見紛う程の完璧な 素晴らしい出来映えのCDが勢揃いしていました。

「自分の好きなアーティストの、自分だけのベストアルバムを作っているんだよ。いくつものCDを聴いて、その中でも特に気に入った曲を選び出して、曲順を決めて、タイトルをつけて、ジャケットを制作して、世界に一枚しかないオリジナルアルバムが出来上がるんだよ。」

そして、さらに、最後に一言、
「そのうち、ライナーノーツとか自分で書こうかな、と思ったりしてね!(笑)」

レコーディングのお忙しいところ、どうも有難うございました。


大野雄二先生プロフィール

1941年5月30日 静岡県熱海市生まれ。慶応義塾大学法学部卒。 慶応の名門ジャズバンド「ライト・ミュージック・ソサイティ―」に在籍し活躍、同バンドの歴史において数々の伝説を残す。在学中よりプロミュージシャンとしても活動を開始し、様々なバンドでセッションを重ね、モダンジャズピアニストとして脚光を浴び、1967年には自らのトリオを結成する。
CM音楽の依頼をきっかけに、1970年頃より作家活動を開始する。
1976年、映画『犬神家の一族』の音楽を担当。
これまでの日本映画の枠を打ち破る斬新なスタイルの音楽性によって映像を盛り上げると共に、その艶のある美しいメロディ、清玄な響きは多くの観衆を魅了し、第31回毎日映画コンクールの音楽賞を受賞する。
その後黄金期を迎える角川映画においても、多彩な音楽の手腕がふるわれ、77年『人間の証明』、78年『野生の証明』といずれの作品でも高い評価を得ている。
日本テレビの番組音楽と大野氏との関わりは深い。
『火曜日の女』シリーズ(1969~72年)に始まり、『パパと呼ばないで』(1972年)、『水もれ甲介』(1974年)など石立鉄男ドラマシリーズ、『24時間テレビ~愛は地球を救う』テーマ音楽(1978年)、『大追跡』(1978年)、『外科医・有森冴子』(1990年)、『ルパン三世』(1977年~現在)をはじめとする、幅広いジャンルの作品を手掛け、そのそれぞれが氏の音楽によって、今も記憶に残るところが大きいといえる。
これらの作品の中でも、アニメーションの常識にとらわれず、ジャズやフュージョンを前面に打出した“ルパンサウンド”のインパクトは強烈であり、圧倒的なカッコよさで支持を受けた。
現在、青山「Body & Soul」、六本木「alfie」、新宿「J」等を中心に、ピアニストとしてのライブ活動を再開している。センスにあふれ、そして時として熱いプレイを聴きたい方は、これらライブハウスは要チェックである。
また、ライブでの基本メンバーであるベースの鈴木良雄、ドラムの村田憲一郎を率いての「大野雄二トリオ」としてジャズアルバムをリリースするなど、ピアニストとして、作家として、円熟味を増した音楽を発表しつづけている。
上記のほか、主な楽曲として… CM 『きのこの山』『たけのこの里』(明治製菓)『レディーボーデン』(明治乳業) 『エアーポット押すだけ』(象印)『セシール』(セシール) その他多数 テレビ『ニュースTODAY』『小さな旅』『マー姉ちゃん』など アニメ『キャプテンフューチャー』など